2019年 10月 観劇記

 

はじめに

  10月は外科ローテで時間が読めなかったこと、夏休みをとってウズベキスタンへ行った関係で2本だけでした。

 外科ローテは偶然にもあまり忙しくなく、消耗せずに済んだのが今振り返っても本当にラッキーでした。

 

10/6 ゆうめい『姿』@三鷹市芸術文化センター星のホール

  MITAKA "NEXT" Selectionと銘打つシリーズの第三弾。

 コンセプトは、「作演出の池田亮の両親が離婚する*1のでその話をします」と言う強烈なもの。しかも実の父*2を実際に出演させてしまうのだから驚いた。

 そしてその父にモーニング娘を踊らせたり、V-Tuberのようなこと*3をさせたりなどやりたい放題。

 そのコンセプトの中で、「親/家族という存在のどうしようもできなさ」、「"それでも"両親を慕う子の気持ち」など様々なテーマがポップに、ただしっかりと描かれる。

 その中でも主題となるのは、「芸術への憧憬*4を捨てきれずにいるバリキャリ公務員の母」と「芸術の道に進んだ父/息子」の葛藤ではないかと感じた。

 真贋は別として、「ここにある」ことを徹底的に利用して感情を曝け出す、まさに舞台芸術と呼ぶにふさわしい作品だった。

 どちらかと言うと主人公、観客から遠い側に位置づけられた母親すらも「こちら側」に引き寄せる最後の演出も見事。 下半期早々とんでもないものをみせられてしまったと思った。

 3月には代表作を連日上演する企画があるそうで、そちらも今から非常に楽しみにしている。

 

10/6 水素74%『ロマンティック♡ラブ』@新宿眼下画廊

 

 初めてのダブルヘッダー。新宿眼科画廊という眼科とは関係ないスペースの地下で 、名前の通り画廊も併設されているのだが、一言で言えば「メンヘラ系のハコ」だそうだ。

 お話は一人のふしだらな女*5が運転し、冴えない男が同乗する車が、「人らしきもの」を轢いてしまうことから始まる。

 女は罪を知人に被せようとする。その代償に男の「恋人」になってやると言う*6

 その後は男の兄が出てきたり、男と女が結ばれたり結ばれなかったりするが、基本的には2人の男の内面での保身/自己と性欲/他人の綱引き、そしてそれを利用しようとする女という構図。

 タイトルは完全に皮肉で、アンチロマンチシズム全開の作品。これでもかと言うほど

男の愚かさと「好き」と言う言葉の空虚さが描かれる。

 ただ、やや話が単調にすぎる印象で「ここで終わりか」感が残ってしまった。どんでん返しを意図したであろう最後の内容も十分予想できるものだった。

*1:真偽の程は不明だが、主人公の設定などある程度実話に基づいた部分を作る、メタ演出を入れるなど、「本当らしさ」を演出するのも上手だ

*2:本業は舞台俳優らしい

*3:舞台上にHMDをかぶる60代男性とスクリーンに映った猫耳のキャラクターが同時に提示される

*4:そして強烈な感情の起伏

*5:演じていたのは元アダルトビデオ女優だそうだ

*6:「私の代わりに警察に行ってくれるほどに私のことを思ってくれているなら好きになっちゃう」