2020年 2月 映画について

はじめに

 先月から家の近くにある名画座の年間会員になりました。

 せっかくなのでこの1年だけは映画(劇場で観たものに限る)についても軽く記録を残しておこうと思います。


 これらの映画はAmazonプライムNetflixなどのおかげでいつでもどこでも観られるようになっているので、あらすじについて触れることはしません。興味が湧いた作品があれば是非観てみてください。


2/13 『幸福なラザロ(英題: Happy as Lazaro)』

 初っ端から濃厚な宗教映画を見せられてびっくりした。

 聖性を帯びる程の純朴さを見せつけられるのはどこか爽快で、幸福感のある体験だった。そして聖性が具体化したのが音楽であったり、狼であったりするのだろう。

 ただ、「復活後」の展開がご都合主義的なのは仕方ないと思いつつも、最後まで違和感が拭えなかった。きっとキリスト教徒はラザロの聖性による奇蹟と納得できるんだろうなとも思った。

 もちろん、中世的な小作農のシステムの被害者そして加害者までもが、都市のシステムによって搾取されるという社会批評的な側面があるが、どこか真剣に取り組みきれてない印象があったのが残念。

 


2/20 『存在のない子供たち(英題: Capernaum)』

 名画座のお作法として、「2本立て作品の場合はなんらかのリンクを持たせる」というものがあるらしい。

 この作品はレバノン映画で、イタリア映画の『幸福なラザロ』とは舞台も時代背景も大きく異なるが、「システムとそれに搾取される弱者、そしてその抵抗」というテーマは確かに似通っていた。


 『ラザロ』の場合はシステム=前半は地主・小作農/後半は都市・現代ビジネス、弱者=小作農・ラザロ/後半は元小作農・元地主、抵抗は「ひたすらに純朴であること」であったが、こちらはシステム=国家/家庭、弱者=難民/子供、抵抗は「親を「自分を産んだ罪」で訴える」といったもの。


 こちらはより社会派な作品で、ややドキュメンタリーチックに描かれていた。そのおかげか、シリアスな問題をしっかり伝えられるだけの強度がある作品になっていたと感じた。

 
 

2/24 『ミッドサマー』@TOHOシネマズ日比谷

 ネット上で評判が良かったため観賞。


 基本的には「トラウマからの解放+明るめのフォークホラー」といった内容で面白く観ることができた。

 牧歌的な風景、ポップな衣装や小道具と、丁寧に予告されたエログロ表現の対比というのもなかなか新鮮で、話題になるのも納得の出来だった。


 一方で、序盤、村にたどり着くまでの導入がやや雑で、「妹が両親と無理心中した」といった事実が主人公にとってどれほどトラウマになっていたか、なぜそうなのか、という点が観客と共有できていないという印象を受けた。

 そのため、解放への希求によってドライブされるはずの物語が、純粋にカルト村の設定をめぐる物語のみになってしまったのは片手落ちのように感じた。


 さらに残念な事に、その設定も日本の観客には横溝正史三津田信三のような民族ホラーでお馴染みのもので、最後まで特に驚くべき点はないように思えた。 

 そもそも、「主人公達と一緒に世界/舞台の謎を解き明かそう!」といった内容の作品は、作者が事前に準備していた各要素をどういう風に観客に呈示するか、というテクニックだけの勝負になってしまうのであまり面白くないと感じる。 それだけなら設定資料集で十分で、「その設定を用いて作者がいかに実験/冒険したのか」ということに興味があるのだなと感じた。