2022年 2月 観劇記

 

はじめに

 このブログも放置気味になってしまいましたが、自分なりのペースで更新していこうと思います。今も精神科医として割と元気に仕事をしています。

 

 

2/3 『理想の夫』@新国立劇場・小劇場

 新国立劇場の演劇研修所の公演は、優れた戯曲を(比較的)スタンダードな演出で見ることができるので毎年楽しみにしていました。

 今年はオスカーワイルドの日本初演となる作品でしたが、素晴らしい作品で驚きました。

 物語は単純に言えば、「パートナーに対する過度の理想化と信仰、そしてその弊害」が描かれているのですが、それにとどまらない「思い込み(今作では、妻→夫の理想化だけでなく、夫→妻の「本当の自分は受け入れられてない」という不信感)によるミスコミュニケーション」と「相手を受け入れ、しっかり対話すること」の大切さが力強く描かれていてとても印象的でした。

  色とりどりのドレスや華美な家具といった衣装・小道具/広い空間を活かした演出などの新国立劇場らしい部分と、若手俳優陣のフレッシュな部分という両者がうまく融合した上演のように感じました。

 同時期に宝塚で上演されていたとのことで、機会があればそちらも見てみたかったなと思いました。

 

2/12 東京夜行『悪魔と永遠』@本多劇場

  『BLACK OUT』以降なるべく観たいと思っていた劇団の最新作が、いきなり本多劇場で上演されるとのことで観劇しました。泥沼不倫で芸能界からほぼ追放されかけていた東出昌弘を主演に据え、おそらく当てがきで製作された作品という話題もあり、興味深く観ました。  物語は、東出演じる男が酔った勢いでとある少女と飛び降り心中を図るシーンから始まります。しかし、少女は(ちゃんと)飛び降りたのに対し、男は直前で怖気づき、図らずも生き残ってしまいます。生き残った男は「女を殺した」という罪で収監され、一度全てを失います。そして、それ以来男には少女の霊が見えるようになったというダークな設定にまず驚きました。

 その後、男は前科者や外国人が集まる建築会社に拾われますが、そこでもプライドの高さやバックグラウンドの違いから馴染むことができず、さまざまな不和が起こり、最終的には悲劇的な結末を迎えてしまいます。

 その時に発された「何をしたら許してくれるんだ」といった叫びは真に迫るものがあって強く印象に残りました。

  その後健康的に山奥での生活を楽しんでいる彼の姿を見ると、この悪趣味にも思える試みが一つのカタルシスになっている部分もあればいいなと思いました。

 

2/12 お布団 『夜を治める者《ナイトドミナント》』@こまばアゴラ劇場

  支援会員で観劇しました。RPG的な世界観とハムレットをもとに、病、特に精神的な疾患と個人、社会についての思索を示す舞台でした。

 医療的なものを、人をスティグマタイズする権威(作中では「城」)とみなすという視点は面白かったのですが、精神疾患的なものを「種族」に例えてしまったのは大失敗で作品の意義を根底から破壊してしまっていたように感じました。

 なぜなら、作中で描かれる「種族」は変わらない「属性」として描かれていることに対して、病、特に精神疾患の大体は可逆的な「状態」の分類に過ぎず、それを支援の大まかな基準にするといった意味合いが強いからです。もちろん、発達障害や知的障害というのは「属性」に近いものですが、やはり精神医療の対象はその「属性」自体ではなく、そこから派生する不適応や抑うつなどの「状態」なのです。

 これを考えると、脱スティグマを意図する作品が「精神疾患は個人的なもので、不可逆な属性である」という間違ったスティグマを前提としているというマッチポンプのような構造を感じてしまいました。ただこの認識が「社会一般の常識」であるという理解ができたのは「城」関係者としてはとても有意義でした。

  また、半透明な膜を使った演出プランが素敵で、以前芸大卒展でみた作品と似ているなとも思ったのですが、やはり同じ作家さんだったようで嬉しい驚きでした。

 

2/21 山中企画『転校生』@アトリエ春風舎

 こちらも支援会員精度で観劇しました。作品自体は以前に観たことがあったので、どのような違いを感じるのか楽しみにしていました。

 驚いたのは、20人以上登場する女子高生の役を半分以下数の老若男女の役者が演じるという構造でした。記憶が定かではないのですが、元々の脚本では別の人物のエピソードが、1人の登場人物に集約されていた気もします。このことによって、元々の物語にあった「存在の不確かさ」といったテーマが際立っていたように感じました。

 アトリエ春風舎の内装も教室を思い出させてとても印象的な舞台でした。