2022年 1月 観劇記

はじめに

 去年の1月分の観劇記になります。依存症病棟研修も佳境を迎え、これまでの救急病棟勤務とは違った難しさ(”病気”ではないが健康ではない人の扱いや、人を無理なく導いていく技術)を感じていますが、楽しくも大変な日々を過ごしています。

 

1/7 青年団忠臣蔵 OL編』@アトリエ春風舎

 支援会員で観劇しました。松の内から上演するという積極的な姿勢は、「観劇を日常にする」という劇場の方針を体現しているようで勇気づけられます。

 忠臣蔵の四十七士が討ち入りという大胆な結論にいかに至ったのかを、コミカルに描きつつ、日本人/日本語における”意見のすり合わせ”の困難さや、権威主義的な(内容ではなく人で正しさを判断してしまうなどの)部分を戯画的に描く意欲的な作品でした。おそらく平田さんの問題意識は、日本語という言語に内在する構造的な問題に向けられているのかなと感じる場面もあり、とても印象的なお芝居でした。
 典型的なサラリーマン経験がない自分にとっても「あーあるある」と痛感する部分があったので、日頃から無意味な会議や謎の意思決定プロセスに振り回されている人にとってはより響く作品なのかもしれません。

 

1/10 公社流体力学『夜色の瞳をした少女、或いは、夢屋敷の殺人』@調布市せんがわ劇場

 

 朗読見世物という魅力的なキャッチコピーとコンクールのグランプリ受賞という経歴が気になって観劇しました。

 キャッチコピーの通り、舞台は落語や講談に近い形(一方で話芸にとどまらず舞台上でのたうちまわったりなど身体表現を取り入れるのが差異かもしれません)で、演者は役を演じるのではなく物語全体を背負うメディアとして存在する不思議な質感の舞台でした。
 内容自体はメフィスト賞(特に舞城王太郎佐藤友哉)的な特殊設定ミステリィで、よくその手の作品を読んだ中学時代の気分に戻って純粋に楽しむことができました。
 異化効果を狙ったものであろう、過剰にラフな言葉遣いや振る舞いはやや気に障る場面はありましたが、基本的にはスタンダードで、演劇(というより上演)の一面をクローズアップする印象的な舞台でした。

 

1/14 スペースノットブランク『ウエア』@こまばアゴラ劇場

 物語や意図、設定はほぼ理解できないものの、なんとなくな魅力は感じている団体だったこと、ゆうめいの池田さんが原案の作品ということで観劇しました。

 初演も観ていたこともあり、前回よりはディテールを気にして観ることができましたが、まだまだ理解が及ばない点も多く、相変わらず魅力的な不親切さだなと感じました。 アイデンティティの拡散に関係する問題だとは思うのですが、「メグハギ」が何者かは分からず、ドラッグとの関連もあまり分からず…という感じでした。

 支援会員で無料だから観ようとは思えますが、正直お金を払ってまで観るかというと微妙で、興行として成立するか少し心配になりました。

 

1/15 モダンスイマーズ『だからビリーは東京で』@東京芸術劇場・シアターイース

 東京で観劇を始めるきっかけとなった劇団の最新作とのことでとても楽しみにしていました。蓬莱さんの作品は悩める若者の人生の機微をテンプレに陥らないよう解像度高く描きつつも、ユーモアや筆致で深刻にならないように観せるというバランスが素敵だと感じています。

 

 内容自体は、簡単にいってしまえば、コロナ禍を含めた小演劇あるある+演劇人へのエールといったもので、ともすれば「演劇関係者の傷の舐め合い」と切り捨てられてしまうような舞台です。

 しかし、それをしっかりと深い作品に仕立てているのは、各々が抱えている葛藤は「恋人との別れ」「DV+アルコール依存症の父との(心理的な)決別」といった普遍的なもので、それを「演劇か何か」乗り越えようとしようとする姿が鮮やかに描かれたことに尽きるのかなと思いました。

 今でも時折思い出すと、ここでもう少し頑張ってみようと思えるような素敵な作品でした。

 

1/16 多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科『一億マイルの彼方から』@東京芸術劇場・シアターウエス

 美術大学の卒業公演とのことで、今の若い方がどのようなことを考えて表現するのか気になって観劇しました。
 こちらも期せずして「演劇にまつわる演劇」でした。大学を卒業して、これから表現者/もしくは一人の人間として社会にに漕ぎ出す不安と期待、声を上げ続けるという覚悟が眩しい舞台で楽しく観ることができました。彼ら/彼女たちの冒険をこれからも応援していきたいと強く思わされました。
 また、空想の世界をチープにならず説得力をもってあらわす舞台美術も特に印象的でした。

 

1/18 青年団忠臣蔵 武士編』@アトリエ春風舎

 こちらも支援会員として観劇しました。
 「OL編」の兄弟作ということもあり、ほとんど同じ内容でした。OL編ではわざとらしさを感じなかった演出や小ネタがちょっとミスマッチでくどさが出てきた部分もあり、個人的にはより現代的な雰囲気をたたえたOL編の方が好みでした。

 

1/21 スペースノットブランク『ハワワ』@こまばアゴラ劇場

 こちらも支援会員で観劇しました。
 『ウエア』と繋がっている要素はあるのですが、さらに分からなさを突き詰めたような舞台で、ここまで来ると楽しめない部分もありました。せめて原文/原案が提供されれば楽しめたのかもしれません。
 ポップな演出やアイデア一つ一つは魅力的なだけに残念でした。