2019年8月 観劇記

 

はじめに

 書きたいことはたくさん溜まっているのですが、ルーティンワークを優先して8月分の観劇記を残しておきます。また、今月は『松永天馬殺人事件』へのリスペクトとして、劇場で見た映画についても感想を残しておきます。

 また、ある1作品に関しては深く印象に残っているので別の記事にする予定です。

 

8/8 『夕 -ゆう-』 @シアターサンモール

 カンフェティで80%以上のポイントバックだったため、あらすじから漂う地雷感にもめげず半ば怖いもの見たさで観劇。

 

 過度に単純化/デフォルメ*1された人物造形、アイドル・モデル人気に甘えたようなキャスティング、あまりに単調なストーリーテリングに辟易し、時間の無駄と判断して1時間程度で退席。新宿で美味しいラーメンを食べて帰った。

 

8/16 特撮ワンマンライブ@恵比寿LIQUIDROOM

 約3年ぶりに特撮のライブへ。

 『バーバレラ』を生で聴けて良かった。不謹慎かもしれないが、夜勤をしているといつもこの曲を思い出す。

 

8/17 『松永天馬殺人事件』@池袋シネマロサ

 世界初「4DIEX上映」に興味がわき、初めてのインディーズ映画へ。

 

 作品自体は映画論+見る/見られる系のメタ+フックとしての下ネタ+「第4の壁*2」の完全な破壊といった感じで作者のカラーそのまま、といった印象であった。

 

 宣伝方法、彼のこれまでの実績から4DIEXの仕組みは予想はつくので、いざ眼前に現れて何をするのかを期待していたが、思ったよりあっさりしたパフォーマンスに留まっていた。

 「事件」は我々がそれを目撃し、起こった時点で完結しており、その解釈はこちらに委ねられているのだろうと思った。

 そうでなくてもこういうネタは大体のケースでくどくなってしまう気もするので、1曲歌って潔くさようなら、で良かったのだと思う。

 

8/20 『天気の子』@イオンシネマ市川妙典

 たまにはメジャーな作品をということでチョイス。

 

 印象は「家出少年の成長譚まがい」であったが、見せ方は上手で全く退屈はしなかった。

 演出意図としては「(逃避/無責任の象徴としての)サリンジャー/家出」→「(偶発的に責任を負うことになる)おもちゃ(=フェイク)だと思って放った実弾入りの銃や「雨がやめばいいと思う?」に対する返答*3」→「(責任/代償を払う覚悟を伴った)行為*4や選択」なのだろう。

  最後に描かれるのは「世界の形を変えてしまった責任を負っても2人で生きていく」と言う覚悟だが、後味を良くするためか「責任/代償」の描き方がかなり生ぬるいように感じた。

 

 銃刀法違反や公務執行妨害など様々な犯罪行為は観察処分と言う形で有耶無耶にされる。彼の弾丸は誰も傷つけてはいないからだ。

 また、東京の一部は水没するが比較的平和な日々が描かれ、こちらも本当に苦しむ人や傷つく人は描かれない。

 その点で「最大の被害者」である最後の仕事相手の老婆との対面シーンが描かれたのは意外であったが、彼女も穏やかな表情のまま主人公を責めることはしない。

 この点が逆説的に完全に責任を取ることの難しさ、成長の不可能性を示してしまっている気がしてしまった。

 

 余談にはなるが、重要なシーンの舞台が軒並み所縁のある場所で*5それだけで嬉しくなってしまった。思ったより人は単純なのかもしれない。

 

 さらに余談にはなるが、「オリンピックが終わったら日本や東京は徐々に衰退していくのはわかっているけど見て見ぬ振りをしている」と言う時代の雰囲気からして、ここで「誰かを犠牲にして都市の日常を守る」と言う結末は描きにくいよな、とも思った。

 

8/22 少女都市 『光の祭典』@こまばアゴラ劇場

  テーマやその扱い方が自分の好みに合っていたことを抜きにしても本当に素晴らしいと思った。描かれる感情の強さは決して万人受けするものではないと思う。ただ、撒き散らされた怒りや欲望の裏には、作者の個人への信頼が垣間見えるような気がしたのだ。

 これで一度休止になるようだが、作者が作者自身の「赤くて黒い金魚」に飲み込まれずに向き合い続け、その産物として新たな作品を観られることを強く祈っている。

 この作品を見ることができただけでも東京に来た価値があったかもしれないと素直に思う。

 まだ消化しきれていない部分もあるため、詳しい感想は今後必ずまとめておきたいと思う。

  

8/23 第27班『潜狂』@三鷹市芸術文化センター 星のホール

 実家から徒歩5分の場所にも小劇場があることに驚き。

 

 ブラック企業やパートナー間の相互不理解、DV、金銭トラブル、友情と恋愛、難病といった比較的ありふれた、ただ当人にとっては深い苦悩を生みうる問題を容赦なく描く手法は見事。

 

 最後の「チュニジアの夜」の演奏は「やりきれないけど生きて行かざるを得ない」的な説得力があり、印象に残った。ただどこか言語化や解決法の模索を諦めてしまったゆえの結末のような気がしてしまい、そこまで好みではなかった。

 

8/24 『星を捨てて』@池袋シネマロサ

 『松永天馬殺人事件』の前に流れていた広告に惹かれて再度池袋へ。

 

 現実度の差はあれどィクションとそれを必要とする人を肯定的(社会からの逃げ場としての秋葉原、先の見えない将来からの逃避としての地球滅亡論、かりそめの自己実現のための地下アイドル)に描く作品。どの結末もフィクションが人を飲み込むことなく、あくまで手段として描かれているのは好印象

 最後のシーンの唐突さにはびっくりした。有効かどうかはさておき、直球勝負で清々しいと感じた。

 

8/25 パルコプロデュース『転校生(女子校版)』@紀伊國屋ホール

 平田オリザの名作戯曲『転校生』を新人女優のショーケースとして用いる企画。

 

 脚本自体は高校演劇でも用いられるようにマイルドな味わいだが、その分演出が凝っていて楽しめた。

 

 開演前のロビーに佇む女優たち、徐々に舞台上に現れる開演の仕方*6、風鈴や楽器の音色、舞台上の舞台に設置された椅子と机*7、などどれもちょっと外連味があって楽しめた。

 

8/26 少女都市 『光の祭典』@こまばアゴラ劇場

 同一公演期間に2回見に行くのは初めて。一緒に行った友人も楽しんでくれたようで良かった。

*1:ネガティブな方向へのデフォルメがあったもの悪趣味だ

*2:映画においてはスクリーン

*3:「実は自分の方が年上(大人だった)」と年齢の上下関係が逆転していた、と言うのも示唆的だ

*4:実弾入りと知って銃を撃つ

*5:ラストシーンは中・高の通学路の一つ、最初のシーンの病院や廃墟ビルは塾のすぐ近く、編集プロダクションも自宅から徒歩圏内

*6:これは『その森の奥』と同様か

*7:教室の中と外が明確に分けられている